現在の地形では、地獄田遺跡のある場所は低地（沖積（ちゅうせき）地）にあたります（4ページの図）。しかし、発掘調査で掘り下げてみると、台地の地層である関東ローム層が出てきました。かつては台地だった場所が、現在は沖積層に覆（おお）われて低地になっていることになります。

　低地になった原因のひとつとして、関東造盆地（かんとうぞうぼんち）運動と呼ばれる地殻（ちかく）運動があります。関東平野の中心部が沈んで低くなり、周辺の山地が高くなる動きです。中心部の沈降速度は1年間で3mmほどと考えられています。これが毎年続くと10年で3c皿、100年で30c皿、1000年で3mも低くなることになります。中心は加須市あたりと考えられており、隣接（りんせつ）する久喜市も多大な影響を受けています。

　もうひとつの原因として、利根川の流れの変化があります。利根川はかつて荒川低地を流れていました。しかし、荒川扇状地（せんじょうち）の発達によって徐々に流路がふさがれてしまい（図中の牽薫孝義）、行き場を失っ

た利根川は関東造盆地運動によって低くなっていた加須方向へ流れを変え（図中の→）、中川低地へと流れるようになりました。利根川が流れを変えたのは古墳時代頃のことではないかと考えられています。

　大宮台地と館林台地はかつて地続きでしたが、利根川が流れてきたことで大きく分断されてしまいました。また、利根川によって運ばれてきた多量の土砂によって、台地は埋まっていきました。かつて台地だった場所が利根川により低地化したところを加須低地と呼び、加須低地内に残された台地を「埋没（まいぼつ）台地」と呼んでいます。

　こうして久喜市内では台地と低地の比高差があまりなく、地獄田遺跡のように、場所によっては台地が低地の下に埋まっているところもあるのです。

　「第５回特別展　発掘！縄文時代の村―地獄田遺跡展―」（久喜市立郷土資料館　平成26年10月18日発行）より

　地獄田遺跡（じごくだいせき）
　地獄田遺跡は菖蒲町小林に所在する縄文時代後期から晩期、今から３５００年から２８００年前ごろの遺跡です。昭和55年に発掘調査が行われ、５軒の住居跡が見つかりました。
　地獄田遺跡では、煮炊きに使う縄文土器、ドングリを粉にする石皿（いしざら）と磨石（すりいし）など生活をしていく上で欠かせない道具が大量に出土した一方、アクセサリーや呪術（じゅじゅつ）的てきな道具など多彩な遺物も見つかりました。
　アクセサリーとしては、耳飾りが数多く見つかりました。耳飾りは耳たぶに穴をあけてはめ込むもので、現代のピアスのようなものです。いろいろな大きさやデザインのものが見つかっていて、なかには直径が８㎝近くもある大型のものも見つかっています。また、ネックレスになる勾玉（まがたま）や管玉（くだたま）なども見つかっていて、アクセサリーで着飾ったおしゃれな縄文時代の人々の姿を想像することができます。
　呪術的な儀式で使われたと考えられる道具としては、土偶（どぐう）、石棒（せきぼう）、土版などが出土しています。遺跡が形成された縄文時代後期・晩期は、それまでの温暖な時代から徐々に寒冷化していく時代でした。ドングリなどを主食としていた当時の人々にとって環境変化の影響は大きく、その不安の中で人々は呪術的なものに頼っていったと考えられています。
　呪術的な道具のなかで、珍しいものとして人面付土版があります。土版は守り札のようなもので、何ともいえないユーモラスな顔をしています。地獄田遺跡の人々がどのような思いで作ったのかをいろいろと考えてみるのも楽しいかもしれません。

　郷土資料館では、地獄田遺跡を紹介した「第５回特別展　発掘！縄文時代のむら－地獄田遺跡展－」を12月27日㈯まで開催中です。縄文時代の人々が使っていた道具の数々を、実際にご覧ください。　問合せ　郷土資料館　☎57・１２００
　　

▲耳飾り（上）と人面付土版（じんめんつきどばん）（下）